(2022.2.27)
記事の概要
・MLBで今問題になっている労使交渉に関して、基本のエッセンスのみ解説します。
・米国現地の記事を引用しながら解説しますので、英語の勉強にも役立ちます。
・はじめに
ここのところメジャーリーグのニュースで騒がれている「ロックアウト」や「労使交渉」、開幕延長や試合数減少の恐れ。それらのニュース、正直なところ私は良く分かっていませんでした。何が起きているのか気になり、米国現地の記事などに目を通して理解する事ができました。ですので本記事では、MLBの現況を理解したい方の為に、基本のキの部分のみにはなりますが、現地記事から英文を引用・和訳しながら解説していきます。英語の勉強にもなりますので、ご参考になれば幸いです。
引用元:SBNation.com
記事タイトル:The MLB lockout explained, in 5 minutes
The big issues you need to know about what’s happening in baseball. By James Dator (Dec., 2, 2021)
URL:https://www.sbnation.com/mlb/2021/12/2/22814019/mlb-lockout-explained-in-5-minutes
・今何が起きているのか?
MLB owners locked out players Thursday as the labor battle that began between the sides last year moved into its next stage. The lockout came after the collective bargaining agreement, signed in 2017, expired at midnight — and could put the 2022 season in jeopardy unless something progresses.
MLBのオーナー達は、労使交渉が昨年次のステージに進んだので、木曜日に選手たちをロックアウト(締め出し)した。ロックアウトが起きたのは、2017年に調印された包括的労働協約が期限切れになったためである(赤太字)-その為、何か進展が無い限りは2022シーズンは(開催の)危機に瀕する可能性があるのだ。
✅Collective Bargaining Agreement:略してCBA、包括的労働協約、労使協定、球団オーナーと選手組合の間の待遇などに関するもの
✅jeopardy:危機にさらされること
上記の現地記事からも分かる様に、今アメリカ大リーグでは「労使交渉」が起きている訳です。日本のプロ野球の場合ではシーズン終了後の契約更改で、年俸交渉が毎年繰り広げられますが、それの「協会 対 選手会」版の様な形になっています。日本ではよく「銭闘」などと揶揄される球団・選手間の年俸交渉で、数々の珍言・名言が生まれてきた訳ですが、今MLBで起きている事はスケールが異なります。労使交渉が片付かないと、選手たちはキャンプやトレーニングも出来ないですし、このままでは開幕の日程もずれ込んでしまう危機に瀕しています。
・ロックアウトとは?
上記の労使交渉が長引いているによって、「ロックアウト」状態になっているMLBですが、そもそもロックアウトとはどういう事なのでしょうか。
意味は言葉の通り「締め出し」状態なのです。締め出されるという事は、球団側は球場やトレーニング設備を全て閉じ、選手に使わせる事は出来ません。更には所属選手達の契約更改も出来ませんし、FA選手たちは次のシーズンの所属先を決める事すら出来ません。
これは海の向こうの出来事ではなく、これに伴ってプロ野球から大リーグ行きを希望している広島カープの鈴木誠也選手の移籍先も全く決められない訳です。また、眉唾物ではありますが現在フリーエージェントになっているメジャーリーグの大物たちが来季の早期契約を求めて日本のプロ野球に来るかも(?!)なんて噂もあります。
What exactly is a lockout?
The process of a lockout is essentially simple: Owners halt all baseball activities, and can literally lock out players from their facilities. During this time in the year the only business taking place are contract negotiations and players working out, so by stopping all that activity it’s designed to pressure the union into expediting CBA negotiations.
厳密にロックアウトとは?
ロックアウトに至る工程はいたってシンプルである。つまりオーナー側が野球に関わる事全てを中断し、文字通り(球場などの)設備から締め出しを行うのだ。この期間に行えるのは契約の話し合いと選手たちの自主練習だけだ。全ての活動をストップする事によってCBA交渉に関して協会にプレッシャーをかけるという図式である。
✅halt:停止する
✅CBA:Collective Bargaining Agreement、労使協定、包括的労働協約
・オーナー側からの要求
There was a push before the 2021 season to expand the playoffs. This would have primarily benefited teams, who get 100 percent of TV revenue in the postseason, while players only get a portion of the gate, which is considerably smaller than TV revenue.
(MLBオーナー側からは)2021年シーズンの前からプレーオフの拡大を押す声があった。これはポストシーズンにテレビの放映に関わる収益を100%得られるチーム側にとっては収益をもたらすが、選手たちは入場料の一部をもらうだけで、テレビ放送の収益に比べれば少額なのである。
In exchange for this the owners offered a reduction to a 154 game season, and implementation of a universal DH — two things players have asked for. However, the tradeoff was paltry in exchange for the massive additional revenue owners would make from a playoff expansion.
交換条件としてオーナー側は、選手側の求めに応じて1シーズン154試合に減らす案と、両リーグDH制度の採用を提案した。しかしこの交換条件は、オーナー側がプレーオフ延長で得る莫大な追加収益に比べて取るに足りないものだった。
Outside of this, owners wanted to maintain the status quo. The 2017-21 CBA was wildly profitable and beneficial to owners, so they simply wanted to keep the process in place — while making even more money through expanded playoffs.
この事から、オーナー側は現状維持を希望している。労使協定(2017~21年版)は、オーナー側にとって相当収益性の高いものだったので、彼らは単純にそのままの状態をキープしつつ、プレーオフ延長で更に収益を得たいと考えている。
✅status quo:現状、そのままの状態
・選手側の要求
Players want provisions in place to protect prospects from being held back in the minors for the purpose of taking advantage of their contract status to sign them to less money. This service time manipulation is common, and has resulted in players not making their major league debut, despite being ready, because of their compensation.
選手側は、マイナー降格による年俸減額を防ぎ有利な契約を維持できる様な対策を要求している。この様な(メジャートップ選手たちによる)サービスタイム操作はよくあるが、その結果として、(才能や能力面に優れた)トップ選手候補がメジャーリーグデビューできなくなるという代償が生じてくる。
✅manipulation:操作
✅provision:対策
※メジャーリーグでは、「サービスタイム」という言葉がよく出てきますが、要するにどれだけの期間メジャーでプレーしたかの日数です。この年数の長さに応じて球団側と給与面での交渉が出来たり、FA権を得られたりするのです。
In addition, players want free agency to be available to anyone who has reached 29.5 yards old if they’ve accrued five years of service time, or all players who have accrued six years of service time — whichever comes first. This is something the owners have said is a non-starter, as they want to keep the six years to free agency, and three years of arbitration process they’ve had in place.
加えて選手たちは、5年のサービスタイムのある29.5歳以上のすべての選手、もしくは6年以上のサービスタイムの全選手にフリーエージェント制度を適用する事を求めている(どちらかの条件を先に満たせば適用)。この点について、オーナー側はフリーエージェント制度までの6年と、3年間の調停期間を維持したいので、応じられないと言っている。
While top-end marquee contracts have ballooned, the salaries for younger players have stagnated — and the union wants to ensure protections are in place to get standout young stars paid commensurate with their talent faster, rather than being forced to wait for their payday.
人気トップ選手たちの年俸がうなぎのぼりの一方、若い選手たちの給料は低迷している-協会は突出した若い選手たちに相応の給料を早く与える為の保護政策を求めている(給料が上がる日をただ待つのではなく)。
✅stagnate:低迷する
✅commensurate:相応の、見合った
※ちなみに、「選手会」の英語は”Players Association”で”PA”と略されます。引用元の英語記事では”union”の単語が使われていますが、”PA”は良く聞く言い方で頻出するので覚えておく事をおすすめします。
Finally, on the topic of potential playoff expansion, players are concerned that expanding the field will motivate teams to spend less on players knowing they could still slide into the postseason and benefit from the TV revenue from the playoffs.
最後にプレーオフ拡大の可能性について、選手側は球場を拡大した方がチームの士気が高まり、選手の負担も減るとしている。これはオーナー側がポストシーズンにすべり込めばTV放映で収益が得られる事を知った上での対応である。
・2022シーズン開幕はどうなるのか?
The lockout was a tactic to expedite CBA negotiations. Owners have been resistant to meet any of the players’ demands, instead offering crumbs attached to major issues like playoff expansion.
ロックアウトは労使交渉をすすめる為の戦略だ。オーナー側は選手側のどの要求にも抵抗しており、その上プレーオフ拡大の様な重大な問題をくっつけて提案してくる始末である。
✅tactic:戦術
✅crumb:わずか、くず、かけら
While both sides are very firm on their demands, historically, lockouts in baseball have not led to missed games. In short: Owners and players know there’s a lot to be lost — so it’s likely we will get movement on a CBA before it impacts the 2022 season.
両者が双方の要求を頑なな態度を取っているが、野球の歴史上ではロックアウトが試合減につながったことはない。つまり、(試合数減になれば)オーナーもプレイヤーも失うものが大きいと分かっている。2022年シーズンに影響が出る前にこの労使交渉の進展が見られる可能性は高い。
・さいごに
引用した英語の記事は2021年12月時点のものなのですが、記事執筆時点の2月末、未だに解決されておらず長引いています。2月中に解決しないと選手たちの練習期間が十分に取れない為、2022シーズンの試合数減もあるかもしれないと言われています。試合を見たくて開幕を楽しみにしているファンからすればあまり見聞きしたくないものではありますが、お金の話はどうしても気になってしまうものです。
大谷選手や筒香選手等の今メジャーにいる日本人選手たちの心配はもちろんですが、今年広島カープからメジャー移籍を目指している鈴木誠也選手の事は本当に気の毒に思います。どうなってしまうのか、労使交渉の行方からしばらく目が離せません。
本記事では今問題になっているメジャーリーグの労使交渉、ロックアウトについてなるべく分かりやすく、基本事項のみを解説しました。お役に立てば幸いです。
おわり