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【海外記事紹介】パンデミック禍でのメンタルヘルスの問題(要約)

(2020.10.28)

記事の概要
パンデミック禍でこれまでの生活様式が大きく変化している2020年。それに伴うメンタルヘルスの問題を取り扱った海外のニュース記事を要約します。
・シンガポールでの事例になります。

1.はじめに

新型ウイルスの蔓延により2020年はこれまでの生活スタイルが大きく変わっている年だと思います。新しい生活様式(New Normal)ということで、日本でもテレワークなどが急速に普及し、働き方がガラッと変わってしまった方は多いのではないでしょうか。私や身の回りの人も、在宅や時短、輪番制のテレワークを運用したり顧客訪問・来客を制限したり…。
その一方で、環境が大きく変わった事で、適応障害や精神疾患の問題も良く耳にしています。ニュース番組でも、相談ダイヤルなどが紹介され、メンタル疾患は身近に聞く様になってきていると思います。
参考:首相官邸サイト「各都道府県の新型コロナウイルスに関するお知らせ・電話相談窓口」

この様な傾向は海外でも同様で、本記事ではシンガポールの事例を紹介します。出典はシンガポールのメディア’Channel News Asia(CNA)’から、「It isn’t all about mental disorders — the little-known casework done in IMH’s emergency room(By Desmond Ng)(精神疾患だけの問題ではないーIMHの救急処置室で行われている知られざるケースワーク)」という記事です。
本文を引用→日本語訳→難解単語対訳、の手順で書いていきます。

※シンガポールの方とは仕事上で話すことがあります。日本ではテレワークと言いますが、シンガポールの人は、WFH(Work from Home)と言う言い方をしていました。また、緊急事態宣言は’Circuit Breaker’と言っていました。

2.記事の概要

出典:CNA Insider-It isn’t all about mental disorders — the little-known casework done in IMH’s emergency room

Faced with job losses or pandemic-induced stress, more people are in need of help. These are just some of the cases the Institute of Mental Health’s Emergency Services are seeing.

「精神疾患だけの問題ではないーIMHの救急処置室で行われている知られざるケースワーク」
失業やパンデミック禍でのストレスに瀕し、多くの人々が助けを求めています。
これらはIMHの救急対応窓口が対応しているケースのいくつかにすぎません。

casework:ケースワーク
emergency room:救急処置室
IMH(Institute of Mental Health):(シンガポールの)メンタルヘルス協会

・シンガポールにおいてメンタル疾患患者が増加傾向

SINGAPORE: The number of patients seeking help this year from the Institute of Mental Health’s (IMH’s) 24-hour Emergency Services has gone up as more people became stressed amid the COVID-19 pandemic.
Some of these patients face adjustment disorders due to the pandemic, presenting anxiety and depressive symptoms, said Adjunct Associate Professor Lee Cheng, senior consultant and vice-chairman (clinical) of the IMH Medical Board.
“Some can’t get used to being retrenched from work; some (have) monetary problems,” said Lee, who also heads the Emergency Services department.

シンガポールでは、例の新型ウイルス禍においてストレスを感じる人が増え、今年になってIMHの24時間救急対応窓口に助けを求める患者数は増えました。
「患者の中の数割は、パンデミックによる適応障害で、不安や抑うつ的な症状をうったえます」「またある患者さんは、仕事なしの生活に耐えられないのです。金銭的な問題が生じる方もいます。」と、Lee Cheng非常勤准教授(IMHの医事当局のシニアコンサルタント兼副会長で救急サービス部門長)は言います

amid:~の真っ最中に
adjustment disorder:適応障害
adjunct associate professor:非常勤準教授
retrench:削除する、省く

・サーキットブレーカーにより生活スタイルが変わった

The “circuit breaker” had also affected people in different ways, he added. One patient, for example, had a phobia about getting the coronavirus and refused to leave home; another could not tolerate being cooped up in the house.
The latter, fed up with the social restrictions, would take a “bus to nowhere” and travel round the island.
“Sometimes people get irritated or frustrated. It may not be a psychiatric disorder,” said Lee. “But (for some), these symptoms are too distressing, so they end up coming to the emergency room.”
For those with mild symptoms, his team would approach the patients’ loved ones or even family service centres (FSCs) and counsellors for help.
“We don’t want to over-medicate them … (We) try to draw on their strengths and their coping skills,” he said, adding that those with financial problems would be linked up with social workers.

サーキットブレーカー(日本で言う緊急事態宣言)は、色々な意味で人々の生活を変えました」と彼は言います。例えばある患者は、ウイルス感染する恐怖症になって外出を拒絶する様になりました。別の患者は家に閉じこもることに耐えられなくなってしまいました。後者は、社会規制に疲れ果ててしまって、目的地もなくただバスに乗ったり、(シンガポールの)島中をさまよったりするのです。
「人は誰でも時にはイライラしたりストレスがたまるものです」とリー氏は言います、「しかしこの様な症状は(人によっては)耐えきれない程苦痛で、結果として救急室に来てしまうのです。」
この様な軽い症状の人たちに対して、彼のチームは、患者の愛する人やFSC(家族サービスセンター)やカウンセラーにコンタクトして助けを求めます
「彼らを薬漬けにしたくないからです…彼らの(生来持っている)強さと対応力を活かそうとしているのです」と言い、ソーシャルワーカーに関する財政の問題にもつながってきます、と彼は付け加えました。

phobia:恐怖症
cooped up:閉じこもった
distressing:苦悩を与える
draw on:活用する
social workers:社会福祉士、精神保健福祉士、ソーシャルワーカー

・1日50~60人の患者対応

But there are also suicidal cases — and a lot more that goes on in the IMH Emergency Services department that little is known about, CNA Insider finds out ahead of World Mental Health Day today.

50 TO 60 PATIENTS A DAY
Situated near the entrance of the IMH, the department sees 50 to 60 patients a day, compared with a daily turnover of a few hundred patients at the accident and emergency departments in public hospitals.
The cases are mainly those facing acute stress, said Lee. There are also cases of relapse among those suffering from schizophrenia, bipolar disorder or recurrent depression.

“The easy way out is to admit (the patient), but we need to be patient-centric, (find out) what the patient requires (clinically), and we fulfil their requirements,” he added.
Patients with no mental illness or acute stress would be discharged without an outpatient appointment, depending on the doctor’s assessment. Sometimes they would be referred to an FSC if they encounter relationship problems.

しかし、自殺につながるケースもあります-IMHの緊急サービス部門にくる多くのケースについてはほとんど知られていません。世界メンタルヘルスデー(10月10日)にあたり、CNAインサイダーが取材しました。

~毎日50~60人の患者~:IMHの入り口近くに位置するその部門では、毎日50~60人の患者の対応をします(公立病院の救急科では毎日数百人の対応をしますが)。多くは急性のストレスの患者であると、リー氏は言います。また、統合失調症や、双極性障害、うつ病の再発に苦しむ患者も多いです。
「簡単な方法は患者を受け入れることですが、患者の意思を尊重する必要があるので、患者がどの様な治療を求めているかを聞き出し、彼らの希望を満たすのです。」と彼は言います。ドクターの判断によりますが、精神病のない場合や急性ストレスの患者は、外来の予約は入れず、病院には入れません。もし人間関係の問題が見られる場合は、FSC(家族サービスセンター)に送られることもあります。

acute:急性の
relapse:再発
schizophrenia:統合失調症
bipolar disorder:双極性障害
recurrent:再発
assessment:評価、判断

・今年増加傾向の症例とは

There has been another increase this year, although the figure will be known only once the year is over, according to the IMH.
One in seven people in Singapore will be experiencing a mental health condition in their lifetimes.

Those suffering from schizophrenia or assessed as “very psychotic or very unwell”, said Lee, are admitted straight to the ward. The other group of patients are placed in an observation ward, an open area with six beds.

Most patients under observation are “adjustment cases”. This means they face some form of acute pressure, such as a child who refuses to go to school, a couple quarrelling or a conscript unable to cope with military life.

“(If) the patient refuses to be admitted, then we’d use what we call a formalised admission … whereby the patient is admitted against (his or her) wish,” added Lee.

IMHによれば、今年になって増加傾向のケースがもう一つあります(本来の数字は1年が終わらないと分からないのですが。)
シンガポールでは7人に1人が、人生において一度は精神の不調を経験するのです。統合失調症や、精神病であったり非常に調子が悪い患者はすぐに(専門の)病棟に行くことを認められます。それ以外の患者は「観察」扱いとなり、他の患者と一緒のひらけた病室にいきます、とリー氏は言います。
多くの「観察」中の患者は、適応障害のケースになります。つまり彼らは急性のプレッシャーにさいなまれているのです、例えば登校拒否児童や、口論をしているカップル、兵役中に適応できない徴集兵などがそれにあたります。もし患者が(精神病で入院することを)認めない場合は、患者の意志に関わらず両親が認める「formalised admission」の形を取ります、とリー氏は付け加えました。

observation:観察
conscript:徴集兵

・遠隔医療の普及への期待

The misconception many people have, he said, is that those who suffer from a severe mental disorder must be admitted.
“The diagnosis may be severe, but currently (the condition) may be mild,” he pointed out. “A lot of patients with schizophrenia are functioning in the community, contributing to the workforce. They aren’t a danger to others or to themselves.”

Moving forward, telemedicine may play a bigger role in reducing travel among both existing and new patients, especially during this pandemic, said Lee.
This has already started for some IMH patients from nursing homes — they can be screened in situ, which saves on the travel time too.
“Tele-psychiatry is the best way to prevent unnecessary movement of staff in the community and reduce exposure to the virus,” said Lee. “It can also reduce the stigma (attached to patients visiting the IMH).”

彼が言うには、多くの人は「重い精神疾患患者は入院しなければいけない」と間違って認識しています。診断結果は重いものかもしれませんが、最近では(社会的に)状況はおだやかなものに変わってきています。多くの統合失調症患者は労働力となり、社会的役割を果たしています。彼らは危険な存在ではないのです、と彼は言います。
このパンデミック禍においてはとりわけ、遠隔医療が大きな役割を担っており発達してきています。これにより既存・新規患者に関わらず訪問する手間が省けます。この取り組みはIMHの患者向けで始められており、老人ホームから、その場で画面越しに診療したりするのです。これにより訪問する時間が節約できます。
遠隔精神医療は、看護師の不要な移動をなくし、ウイルス感染の可能性も低減する最高の方法です。また、「IMHを訪問している患者である」という汚名をきせられることの回避にもなります、とリー氏は言います。

misconception:誤解
diagnosis:診断
telemedicine:遠隔医療
nursing home:老人ホーム
in situ:その場で
psychiatry:精神医療
stigma:汚名

3.感想

今回のパンデミックによって、日本においてもテレワークや間引き出勤、時短など様々な働き方が広がり、思わぬ形で働き方改革が実現された様に感じます。しかしそれが成立しない業種もありますし、何事にもメリットとデメリットがあります。今回の記事は社会の急激な変化により起きているひずみを映し出している様でした(私個人はモノづくりのメーカーに勤めているので、モノがある場所に行かないと仕事にならず、最近は通常通りの時間に出勤しています)。
今回の記事で取り上げられていた様な、介護や医療の現場の方々は、患者の受け入れで大変なご苦労をされていることと存じます。パンデミック禍で適応障害やメンタル疾患が増えている様で余計に大変な事と思いますので、社会を支えているそのご苦労に感謝してもしきれない程だと思います。そんな中で医療も遠隔・リモートを取り入れる取り組みは大変良いことだと思いました。
誰もが、どんな業界でも働きやすい「新しい日常」の将来を見据えて進歩していってほしいなと切に願うところです。

ちなみに、プロフィール記事の方に記載させて頂いていますが、私は過去に仕事で3年間シンガポールに駐在していた経験があります。シンガポールは人口約560万人程度で、国土は東京23区より少し大きい位の島です。車で東端から西端まで行っても1時間半程度しか掛かりません。引用記事内に’bus to nowhere’という表現がありましたが、あてもなくバスに乗ってどこかへ行ってもすぐに元の場所に帰れる国なので、この表現はシンガポール独特で興味深いなと感じました。

おわり

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  1. […] 特色としては、シンガポールと隣国のマレーシアの記事がメインで、その他の東南アジア諸国(タイ、インドネシアなど)のニュースも取り扱っています。アメリカ、イギリスなどの欧米諸国のニュースは”World News”扱いのカテゴリーになりますが、こちらもしっかりおさえてます。 その他には、ライフスタイル(CNA Lifestyle)のカテゴリーや、独自の特集記事(CNA Insider)での特集記事に見所が多く、世界の先端技術やトレンドが分かり、知識欲が刺激され、満たされます。 先日アップしたパンデミック下でのシンガポールの精神医療に関する記事も、cnaにて見つけたものです。 […]

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